歩いても歩いても
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作成日時 : 2008/08/28 07:44
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作品の舞台は、三浦海岸近くの開業医宅。原田芳雄が演じる老医師は、緑内障を患って引退している。樹木希林の妻と二人暮らし。物語は、その家を訪れる次男一家と長女一家によって描かれる。主人公は、次男。阿部寛の役は、フリーの絵画修復師。ドラマの主軸は、この次男と父親との葛藤だが、見終わって心に残るのは、老医師の妻の心の秘密だ。主人公の姿には、監督の姿が幾分投影されているだろう。監督の母親が亡くなられたのが、この作品成立の動機になっているという。監督ご自身のご家族そのままではないにしろ、実際の姿が影を落としているはずだ。子供の頃、父を病気で失ったために医師になった老医師は、医師という仕事に強い誇りを持ち、自分の仕事を息子に継がせようとした。その父の意思を受け継いだのは、若くして事故死した長男。この物語には、長男の死も深い影を落としている。「・・・あの子が生きていればどうにかなっただろうけどねえ」という、母親の呟きが耳に残る。両親は、長男に大きな期待を抱いてたのだ。両親にとって宝のような長男が死んだのは、海だ。溺れかけた少年を助けようとして長男は死んでしまったのだ。作品の途中、助けられた少年が姿を見せる。毎年、長男の命日にお参りに来るのだ。だが、この少年は太った若者で、大した仕事もしていない。彼を助けて死んだ長男とは比較にならないと両親は思うのだ。次男は、「来年から彼をもう呼ばないでもいいんじゃないの。辛そうじゃないか」と、母に言うと、母は不気味な横顔を画面に向けて言う。「・・・だから呼ぶんじゃないか。十年ほどで忘れられちゃあねえ。年に一度くらい、思い出して、苦しんでほしいんだよ」。両親は、彼に殺されたとさえ思っているのだ。この母親の心の闇が明らかに表出していくのは、タイトルにもなっている「歩いても歩いても」と歌う、いしだあゆみの歌声が流れてきてからだ。母親が大切に机の引き出しにしまっていたのは、「ブルーライト・ヨコハマ」。若い頃、愛人のアパートで夜を過ごしていた夫のもとへ息子を連れて乗り込みかけた母親が、アパートの外で聞いた曲だ。裏切った夫への思いは、老後になっても妻の心を苦しめているのだ。三人の子供に恵まれ、忙しい医師の妻として、従順な女を演じてきた妻の胸の中には、最愛の長男を亡くした哀しみと、夫への憎悪が同居しているのだ。父親との葛藤を抱えて物語の主人公となった次男の存在は、物語が進むにつれて次第に薄まり、主役の座を次第に、母親へと譲っていくことになる。両親に受けがよく、ちゃっかりと実家に転居することを狙っている娘。車の営業マンで調子のいい娘の夫、二人の子供たち。一方、次男の結婚相手は、夫を病気で失った再婚妻。連れ子の長男の心にも影が落ちている。この一家を取り巻く人々の姿が、的確に描かれて、それぞれの思いが、巧みに映像で語られる。ラスト、老夫婦がまもなく亡くなったという次男のナレーションが流れて、数年後の墓参りが描かれる。次男には娘が生まれ、連れ子の長男も高校生になっている。家族はそれぞれに変遷し、世代を重ねていく。10年経てば、また、新たな家族の姿を是枝監督は描き出すかもしれない。
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阿部寛の秘密 2008/08/28 16:05 |